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縁プロジェクト_vol.20

心を豊かにする
和紙の新たな文化を世界へ。
佐藤 友佳理
和紙デザイナー
佐藤 友佳理氏
PROFILE

愛媛県出身。ロンドン、東京でモデルとして活動。桑沢デザイン研究所卒業後、自身が育った手漉き和紙の産地である内子町五十崎にて、新しい手法の和紙製作に取り組み始める。2012年よりアトリエを名水百選「観音水」の湧く、西予市宇和町明間(あかんま)に移す。和紙インテリア、オーダーメイドのタペストリーや建具などのデザイン・製作を国内外に向けて行う。りくう代表。

糸を張り巡らせた木枠に浮かびあがるのは「呼吸する和紙」。
独自の技術とデザインセンスでさまざまな和紙のインテリアプロダクトを製作し、
伝統の和紙文化と現代の暮らしに新たな息吹をもたらす佐藤友佳理氏のアトリエを訪ねた。

自国の文化をあらためて見つめた。

ロンドンでファッションモデルをされて、そこからこの世界に入ったのはどのような経緯があったのでしょう?

確かに今の仕事とは全くかけ離れていますよね(笑)。私はモデルになりたくて渡英し、かなりアバンギャルドなファッションモデルをしていました。デザイナーやメイクアップアーティスト、カメラマンらとともに、私も一人の表現者として、みんなでアートをつくる経験をさせてもらいました。ロンドンは人種のるつぼで、周りの人たちは国も宗教も考え方も違う。皆バックグラウンドをしっかり持っている方たちでした。それで、よく日本のことについて質問されたのですが、私は自分の国のこと、日本の文化などを説明できないことに気づかされました。帰国してからもモデルを続けていたのですが、ある時地元の紙産業を再興するプロジェクトが立ち上がったことを知ったのです。それから自分が紙の文化に触れて育ったことをあらためて考え、私も参加して何か役に立てればと思いました。

この辺りではもともと紙の産業があったのですね。それが衰退していった…。

ええ。四国は“紙国” とも呼ばれ、愛媛も紙産業で栄えていました。私の出身の内子町・五十崎は和紙の原料の楮(こうぞ)が豊富に採れることから、大洲藩で350 年以上も大洲和紙が受け継がれ、和紙づくりが盛んに行われていました。ですが、帰国した頃は地元でほんの数人のおばあちゃんしか作り手として残っていなくて。それで私も力になれればと思い、まずはデザインの勉強から始めることに。ビジュアルデザインやブランディングを学び、独りよがりのアートではなく、受け取る人のことを考えて表現することの大切さを知りました。そうしてデザインを学びながら、プロジェクトに参加していくわけです。

空間を柔らかく仕切る伝統の障子や襖の進化形。

そのプロジェクトとはどのようなものなのでしょう?

父の会社と愛媛県産業技術研究所が共同開発するゼオライト和紙を製品化し、伝統の紙産業を振興していくことです。ゼオライトは水分子や気体分子の吸着構造を持つ鉱物で、その溶液と楮を混ぜて紙を幾重にも漉き、「呼吸する和紙」をつくりあげます。和紙はもともと空気も水蒸気も通すものですが、「呼吸する和紙」はさらなる吸放湿性と消臭性のプラスアルファの機能を持ち合わせています。これを使ってどのようなものをつくったら現代の暮らしに取り入れてもらえるかを考えていきました。

紙が均一に覆われているのではなく、編み目の所々に不規則に空きがあってとても軽やかな表情ですね。

紙がのらないところができるのは意図してつくるものではなく、自然にできるものなんです。何度も漉きあげる紙の部分に透け感があるのも特徴です。この「呼吸する和紙」の機能性と軽やかな表情を見せる特性を活かして、日本にもともとあった障子や襖では感じ得なかった空間をつくりだせたらと考えています。従来の和紙を利用した間仕切りも空間を柔らかく仕切るものですが、それよりもさらに柔和で繊細な雰囲気をつくりだせるので、そこを感じていただきたいですね。そうして洋紙にはない質感と優しさが和紙にあることをあらためて知っていただければと思っています。

縁プロジェクトで、和紙の文化をともにアジアへ、世界へ。

障子や襖など和紙が住まいに活かされることは少なくなっているようですが。

日本ではもともと木や紙など自然のものを使って住まいをつくっていましたが、いま和紙が住まいに使われることは少ないですね。和室すらない家も増えてきました。紙が破れてしまうから、直すのが面倒だからでしょうか。でも、もともと日本はフラジャイルなものに囲まれた繊細な世界で生きていたんですよね。ちょっと強くぶつかれば壊れてしまう。儚いものだから大切にする。そうした空間で暮らしてきたから、日本人ならではの美しい所作が育まれたのだと私は思うんです。西洋のような石や煉瓦の世界で暮らしていたら、日本人の所作は生まれなかったはずです。

日本人ならではの感性によって生まれた和紙のある空間。そこで日本人は暮らしていたんですね。

障子は優しい光を取り込みながら、内と外を柔らかく隔てます。音を通し、影を映し、外の気配を感じさせながら柔らかく空間を仕切る。そうした日本の伝統の和紙の使い方をもっと現代の日本の人々に、そして世界の人々にも知ってほしいと考えていたところに、藏持さんとお会いする機会がありました。藏持さんは数寄屋造りをはじめ日本の伝統の住まいの文化を受け継ぎ革新させ、国内に限らずタイを海外拠点として広める活動をされています。想いは同じでしたので、私も縁プロジェクトに参加させていただくことにしました。ともにその国の風土にマッチした心地よさを感じられる空間づくりをして、和紙の文化を海外へ発信していきたいですね。目下、タイの暮らしを研究しつつ、藏持さんとともに商品開発に取り組んでいるところです。

“新結合”によって、伝統は新たな歩みを遂げる。

佐藤さんのものづくりと藏持の暮らしづくり。融合することでまた新しいものが生まれそうですね。

そうですね、とても楽しみです。私も和紙で一輪挿しをつくっているのですが、これは3Dプリンターでつくったナイロン素材の形状に「呼吸する和紙」で漉きあげて、中に試験管を入れたものです。和紙の可能性を広げるためには伝統的な手法や考え方にとらわれることなく、こうした3Dプリンターなど新しい技術を使うことも必要だと考えています。革新し続けるから、その時代時代の人に使ってもらえて、伝統の文化は続いていくのだと思います。藏持さんとコラボレーションされている作家さんや職人さんたちは、みなさんそれぞれの世界の伝統を受け継ぎながら革新されている。縁プロジェクトではさらに藏持さんの暮らしづくりにおける視点が加わり、新しいものが次々と生まれていますよね。

最近、縁プロジェクトに加わった草木染め作家の清水将勇さんともコラボレーションを進めていると伺いましたが?

そうなんです。縁プロジェクトではさまざまな作り手の方がいらっしゃって、作り手同士のコラボレーションができるのも興味深いところで。私は和紙を使った建具や衝立などを白木で製作していますが、清水さんがつくられる草木染めのさまざまな色合いの木は使ったことがありません。現在、清水さんと試作に取り組んでいます。どのようなプロダクトに仕上がるかとても楽しみです。私のものづくりで大切にしていることは、それがあることで、どこか心が癒されたり、和らいだり人の心に作用するものをつくるということなんです。こうしてさまざまなコラーボレーションを重ねることで、より豊かに人の心に作用することができそうで、いま自分の中では新たな世界が開けたと感じています。

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