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縁プロジェクト_vol.19

人に時代に馴染む
染器をつくる。
清水 将勇
草木染め木工職人
清水 将勇氏
PROFILE

千葉県出身。東京農工大学工学部機械システム工学科を卒業後、職業訓練校を経て漆工芸作家・辻徹氏に師事。その後、琴屋、木工所などで腕を磨き、2012年に独立。茨城県八郷地区に工房を構え、杉材で食器や家具などをつくり草木染めをする創作活動を始める。2016年、制作に携わった無印良品キャンプ場ポスターがニューヨークADC賞で銀賞。2017年、いばらきデザインセレクション2017知事選定。Japonica(ヤポニカ/茨城県石岡市)代表。

杉の美しい木目と柔らかな表情を活かしながら、草木染めによって新たな個性を引き出していく。
日本人に馴染み深い杉材に独自のフィルターを通して、
多彩な作品をつくりあげる清水氏の創作への想いを訊いた。

職人として納得のいく仕事をしていたい。

清水さんがこの道を歩むことになったのは、どのような経緯があったのでしょう?

私は幼い頃から手を動かしてものをつくるのが好きでした。大学へ行くなら自分は機械の方面かなと。機械システム工学科で流体力学を学び、新幹線の走行に伴う衝撃波を研究していました。でも机上の勉強が多くて。当たり前なのでしょうが、これはなんか違うなと。そうしているうちに研究の中で実験器具が必要になり、旋盤を使って部品をつくっていったら、これがハマっていって。やっぱり自分の手で生み出すことがしたいと。その頃、インテリアにも興味があり、木で何かつくりたいと思うようになりました。それも建築という大きな規模ではなく、最初から最後まで全部自分の手でつくれるもの、木工を仕事にしようと。それから職業訓練校に通った後、漆工芸作家の辻徹さんに弟子入り。イチから職人としての木工の仕事をみっちり叩き込まれました。

そうして木工職人として歩んでいくわけですね?

ええ。でも、それから紆余曲折を経て、ある木工所で家具づくりをするのですが、そこでの職人の扱われ方を見て、職人として生きていくことについて考えさせられたことがあるんです。その木工所ではフラッシュ構造をメインとしたマンションなどの造り付けの家具や店舗の什器などを製作していました。60~70代の昔ながらの職人気質の方々は、製品として表には見えない部分にも気を配り、丁寧に調整や加工をするんですよね。ここをちゃんとしておかないと、10年経った頃に影響が出るからと言って。でもそこの経営者は効率重視。仕事が回らなくなるからそんな作業は不要だと言う。それでもしっかり手をかけようとする彼らは、やがてリストラされていきました。自分も納得のいくものをつくりたいのに、それが叶わない。私の中で培われ始めていた職人のプライドをここで崩されたくありませんでした。ならば、もう独立しようと。

杉の優しさを活かす草木染めの道具で、暮らしをそっと彩る。

そうして清水さん独自のものづくりが始まるのですね。

木に触れ始めてから、杉が好きになっていったんです。辻さんのところでは楢や栗など硬い木を使っていたのですが、私は柔らかい杉に惹かれていました。杉は日本人にとって昔から馴染み深い木で、塀や壁、天井、建具といった建築にも、樽、桶、櫃など暮らしの道具にも用いられたものです。それが、戦後の植林政策で日本中を杉や檜で植えていったのに、住宅事情や暮らし方の変化、安い外国産材によって山は放置され荒れていった。近年、杉材は見直され利用を促進する動きが目立ってきましたが、一般の消費者が杉に親しもうとはそれほど思われていないような気がします。きれいな木目で風合いが柔らかく、人肌に近い色合い、そんな杉の魅力を多くの人に知っていただきたい。その想いで食器など暮らしの道具をつくっています。

まわりを見渡しても山々には杉の木がありますね。この辺りの杉を使用されているのですか?

そうですね。近くの製材所が山林を管理していて、計画的に伐採した杉を材料にしています。暮らしのまわりにある資源を、この杉の魅力を、いかにして人々に感じてもらうか、そこが出発点でした。杉は柔らかく優しいのですが、反面キズがつきやすい。どうしたら受け入れてもらえるかを考え、伝統的な材料で何か付加価値をつけるために試行錯誤を重ね、ようやく辿りついたのが草木染めでした。自然の草木を煮出した染料で塗ると、杉の優しい風合いを損ねることなく、ひと味違ったよさが現れるんです。杉そのものは自己主張が弱く個性としてはおとなしいとも見られるので、そこをいろんな色で染めていくことで、一人ひとりに受け入れてもらえるのではないかと思い、このやり方を続けています。お気に入りの色合いや風合いのある道具で、毎日の暮らしを少しでも彩ることができればと思っています。

アジアのハイセンスな人々に向けて、
和の技術で洋の食器をつくる。

清水さんは作品をどのように人々に伝えているのですか?

現在は笠間と水戸のギャラリーやお店に置いてもらったり、不定期で展示会に参加したりしていますが、認知はまだまだだと思います。私はつくる人間ですから、広めていくことまではなかなか手がまわらない。それが、これまで作品をご覧いただいた方のご縁で藏持さんをご紹介いただき、私も縁プロジェクトに参加させていただくことになりました。藏持さんは茨城を拠点に家づくりをされていて、お客さまの暮らしの文化を高める提案をされています。その住まいのプランの中で私の作品をご提案いただけるのは大変ありがたいですね。お客さまのお好みの空間をつくりあげる中で、そこに馴染む食器をつくり、お好みの色合いで草木染めをしていく。これこそオーダーメイドの暮らしづくりですよね。

もう既に動いているプランはあるのでしょうか?

いえ、それはまだこれからなのですが、実は海外での話が先行しているんです。藏持さんでは現在、日本の伝統的な暮らしの文化をタイを起点に広める活動も展開されていますが、そこでハイセンスな人たちが通うレストランやカトラリーを扱うショップ向けに、私の作風で現地にローカライズした洋食器をつくることになりました。向こうの人たちは食事は家であまりせず外食が多いと聞きますし、アッパーミドルの人たちは自宅でのパーティも多い。そうなると日本で今私がつくっている皿よりも大きなプレートが受け入れられるのではと考えています。そこで、日本の建築や工芸で古くから親しまれている杉を使用していること、それは計画的な植林と伐採によって山林の環境保全と林業の貢献につながること、そして自然な染料を使用し杉の新たな魅力を引き出す職人の草木染めで仕上げていく。そんなストーリーとともに伝えていきたいと考えています。

時代に寄り添うものを、ともに生み出していく。

縁プロジェクトでいきなりタイ進出なんですね。清水さんの作品は木目が美しく見える優しい色調からヴィヴィッドなものまで染めの色合いが豊富で、海外の方も注目しそうですね。

私自身、どんなものができて、どんな反応があるのかとても楽しみです。これまでのものづくりから、一歩前進する感覚ですね。今まで通りの作品ではなく、その国の受け取る人たちの文化や暮らしを考慮していくことで、新しいものが生まれていく。思えば、それは海外に向けたものの話だけではないですよね。ここ日本、現代の暮らしにおいても、我々職人がこの手でものをつくる中で、ただ伝統の技術を受け継ぐだけでは文化として進まないし、継承されない。もちろん古いものを守ることは必要ですが、つくりあげるものが古いままでは、今の時代に受け入れられません。民芸というのはその時代の暮らしに必要とされるものですから。時代が変わっていけば、新しいものが生まれるのは必然だと思っています。

縁プロジェクトに参加される作り手の方々も、そのようにお考えの方が多いですね。

確かにそうですね。先日お会いした和紙デザイナーの佐藤友佳理さんも、伝統の和紙をベースにしながら、革新性のある技法で新たなプロダクトを生み出していらっしゃる。お話を伺っていくと、こだわりと柔軟性のあるものづくりというところなど、自分と重なるところが実に多かった。そんな方ともコラボレーションすることが決まり、これから縁プロジェクトでどんなものができあがるか、また楽しみが増えたところです。

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