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縁プロジェクト_vol.17

スペシャルティコーヒーで
豊かな暮らしをつくる。
葛西 甲乙
有限会社かさい珈琲
代表取締役
葛西 甲乙氏
PROFILE

1997年、湘南・辻堂で「かさい珈琲」開業。2003年より日本スペシャルティコーヒー協会(SCAJ)で学び、2007年SCAJ ローストマスターズ委員に。2008年、カップ・オブ・エクセレンス国際審査員に選出され、以来中南米各国でトップ・オブ・トップの審査を毎年務めている。2013年に自店をスペシャルティコーヒーの自家焙煎店「27 COFFEE ROASTERS」にリニューアル。世界各地の生産者とのつながりを大切にし、日本のスペシャルティコーヒー文化の普及に務めている。SCAJテクニカルスタンダード委員、JBC(ジャパン・バリスタ・チャンピオンシップ)センサリージャッジ、COE(カップ・オブ・エクセレンス)国際審査員。

世界各国の意欲的なコーヒー生産者たちの志と品質に魅せられ、
ダイレクトトレードでスペシャルティコーヒーの素晴らしさを伝えるロースターがいる。
世界の生産者と日本の消費者を結ぶ葛西甲乙氏の想いを訊いた。

転換点となったスペシャルティコーヒーとの出会い。

ここ湘南・辻堂でお店を立ち上げたのは20年前だそうですね。ずっとスペシャルティコーヒーを扱っているんですか?

いえ、本格的に扱い始めたのは12年ほど前からで。1997年に開業した頃は、日本ではまだその存在すら知られていなかったんですよ。もちろん私も知りませんでした。当時は大手が輸入した豆を問屋から仕入れることが当たり前で、思い入れのある生産者の豆を個人で買い付ける人はほとんどいない時代。品質の基準もなく、焙煎の方法も確立されておらず、私は独学で焙煎をし豆を売っていました。でもあまり売れず、コーヒーの知識と技術がまだ足りなかった私は試行錯誤を重ねていました。

日本はコーヒーの文化が発達していなかったのでしょうか。

今でも日本は欧米のコーヒー先進国より10年は遅れていると言います。90年代後半くらいから、世界が生産者をはじめコーヒー市場全てを高める意識へと変わりつつある中、日本はずっと出遅れていました。日本にスペシャルティコーヒー協会が設立されたのは2003年のこと。コーヒーの何が美味しいのかがわからず一人で悩んでいた私は、協会が主催するカッピングセミナーに参加することにしたのです。そこで初めてスペシャルティコーヒーを口にし、衝撃を受けました。今まで自分が知っているコーヒーとは全くの別物で、爽やかな酸味と透明感、スムースな甘さがあった。新たな品質、新たな世界基準との出会い。これが転機になると確信しました。それからセミナーやイベントに参加して、スペシャルティコーヒーを徹底的に学びました。それが実を結び、4年後には最高峰の国際品評会であるカップ・オブ・エクセレンス ニカラグア大会の国際審査員に選ばれました。

確かな品質は生産者の努力があってこそ。そこに応えたい。

そうして世界の生産者たちと出会うようになったのでしょうか?

そうですね。ホンデュラスで行われたカップ・オブ・エクセレンスに審査員として参加した時、世界のロースターが注目する生産者のもとを訪れました。彼らはサンタバルバラの小さな町で、家族や仲間とともにコーヒーづくりに真摯に取り組んでいました。生産の現場を見て、そこで働く人たちと会話をする中で思ったのです。品質の素晴らしさは、こうした人々の日々の努力によるものであると。買い付ける業者も消費者も、品質だけを見るのではなく、そこで働く人々の暮らしがあることを知らなければならないと強く思いました。それはまさにスペシャルティコーヒーの目的なのですが、これまで机上で学び理解したつもりでいた私は、この人たちの努力を讃え、その想いをお客さまに届けなければならないと心に決めました。

生産者への買い付けはどのようにして行っていますか?

品評会がある場合はオークションで落札したり、これまでの縁を通じて直接生産者のもとを訪ね、品評会の基準に適うスペシャルティコーヒーを買い付けています。現在、中南米を中心に10ほどの生産者の方々とつながりがあります。ただ、ウチのようなマイクロロースターは購入できる量が限られるんですね。欧米のロースターとははるかに規模が違う。少しの量では生産者の方から相手にされないこともあるんです。

生産者の方にしてみれば、なるべく多く買ってくれるところに売りたいわけですね?

やはりボリュームは生産者の方々にとっては大事につくったコーヒーが評価された証であり、バイヤーの信頼の大きさでもあるわけです。それでも分けてくれる生産者がいるのはありがたいこと。そんな方々の想いに、もっと私も応えようと、2016年にホンデュラスの品評会で優勝したゲイシャ種を思いきって単独落札し、サンタバルバラのものも合わせてトップクオリティのコーヒーだけをワンコンテナ分仕入れるという念願を果たすことができました。こうした生産者の方との信頼関係をもっと築いていきたいですね。

生産者と消費者の暮らしを想う、
エシカル&ソーシャルな取り組み。

日本のスペシャルティコーヒーの文化は広まりつつあるのでしょうか?

広がりつつあるとは思うのですが、まだまだだと思います。最近、アパレルショップが扱っているのを目にしました。ですが、その企業のトップは確かな意識を持ってやられているかもしれませんが、店のスタッフにまでスペシャルティコーヒーの本質が伝わりきっていない。淹れ方を見ても味わってみても、私はそう感じてしまいました。先ほども触れましたが、日本の場合は世界と比べてもコーヒーの文化度は低いと思います。自動販売機の缶コーヒーがあるし、コンビニではワンコインで買える。ファミレスではお替わりが無料だったり。そんな当たり前が定着してしまっているんですね。スペシャルティコーヒーは従来のコーヒーとは品質が明らかに違います。その素晴らしい品質を保つために、また生産をする方々の暮らしを支えるという社会的意義があります。そこに共感してくれる人がまだ少ない。海外ではその意義も浸透しており、わざわざお店に行ってロースターが焙煎した豆をバリスタに淹れてもらうことが普通なんですが。日本も早くそんな暮らしが普通になるように、自分ができることを続けていきたいと思っています。

お話を伺っていると、葛西さんは生産者の営みを想う“エシカル”(Ethical)な取り組みと、日本の暮らしにスペシャルティコーヒーの文化を広め、高めていく“ソーシャル”(Social)な取り組みをされているのだと感じました。

そうかもしれません。スペシャルティコーヒーの基本理念「From Seed to Cup」は、コーヒーの種からカップまで一貫した体制で品質管理がなされていることを表していますが、私はその種から育てる生産者の方々の想いに応え、カップを口にするお客さまが豊かなひとときを味わえるような「結び役」でありたいと思っています。確かにスペシャルティコーヒーは生産者の方々の暮らしのため、品質保持のために適正価格で取引されるものですから、エシカルな取り組みです。私はここ辻堂の店にホンデュラスの生産者の方を招いて、お客さまに向けたセミナーやワークショップを開いています。暮らしにスペシャルティコーヒーをもっと浸透させて、豊かなコーヒー文化の醸成を目指すことはソーシャルな取り組みと言えるかもしれませんね。

志をつなぐ“縁”をあわせて、ともに豊かな暮らしをつくる。

文化度を高めたいという考えは、藏持も同じです。縁プロジェクトに参画いただけたのは、そうしたところに共感されたからでしょうか?

そうですね。暮らしの文化を高める一つの要素がコーヒーであればいいなと思いました。藏持さんのお客さまがスペシャルティコーヒーと出会ってその理解が広まり、少しでも暮らしの豊かさにつながるといいですね。それに、おそらくお客さまの中にもコーヒーが好きな方はいらっしゃるはず。家づくりに私が提案するコーヒーを愉しむための工夫を施すのも面白いと思いました。是非コーヒー好きの方の住まいのプランに取り入れていただけたらと思います。

藏持には葛西さんの志に通じるものが多くあります。葛西さんと藏持、お互いの“エシカル”と“ソーシャル”な取り組みが相まって高められたらいいですね。

ええ。私たちがつくる生産者と消費者を結ぶ“縁”は、そこに関わる人々の暮らしや社会が豊かになることを願うものです。そこに藏持さんの志のもとに集まった、つくり手の方々やお客さまなどさまざまな“縁”が出合っていく。そうして豊かさを生む暮らしづくりが広がり、この国の暮らしの文化が高まっていったら素敵ですね。

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