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縁プロジェクト_vol.16

ものづくりの文化を
未来につなぐ仕組みをつくる。
河内 晋平
株式会社studio 仕組
代表取締役
河内 晋平氏
PROFILE

1981年、奈良県吉野の刀匠15代河内守國助の家に生まれる。東京芸術大学美術学部工芸科漆芸専攻卒業、同大学大学院映像研究科メディア映像専攻修了。2009年より約3年間、東京国立博物館アソシエイトフェローとして勤務。2011年より株式会社studio 仕組の代表取締役に就任。日本刀の販売をはじめ、職人とのコラボレーションによる新製品の開発やアーティストの支援など、日本のものづくりの文化の存続を図る事業を展開している。

15代続く刀匠・河内守國助の血を引く河内晋平氏は、この国の心として受け継がれてきた日本刀をはじめ、
さまざまなものづくりの文化を未来につなげていくために、実にさまざまな活動を展開している。
その志に迫った。

刀鍛冶の世界の厳しい現実。

河内さんは刀鍛冶になりたいと思わなかったのですか?

ご存知ない方が多いと思いますが、刀鍛冶を生業とするのは経済的にはとても厳しいんですよ。確かなものをつくれる人でも年間4~5振りが限度。名工と呼ばれる人なら1振り500万円以上になりますが、そこまでいかない人は1振り100~200万円くらいが普通です。年に1振りという人もいるんです。そこから材料代やら研ぎ代やらを引くと、かなり厳しいんですね。今でこそ父はある程度認められるようになりましたが、それまではウチも生活がかなり苦しかったですよ。だから、職業としてはどうかなとは思っていました。

刀鍛冶の世界は後継者が減っているのでしょうか?

ええ、確実に。作刀する免許を持っているのは今だいたい300人くらいですが、刀だけを作って生活できている人は全体の10%ほどかもしれません。純粋に毎日、日本刀だけをつくる人はごくわずかで、大方は他の仕事をしたり、アルバイトをしたりしなければなりません。刀を作りたいという人は減っていないと思いますが、作る人を守る環境は確実に減っています。刀剣ブームで日本刀の存在が注目されても、刀鍛冶の仕事で貧乏すると知れば若い人はやってこないですよね。憧れの仕事で、ちゃんと稼げるのなら後継者は出てくるはず。だから日本刀の文化を残せるように売り方などの新たな仕組みをつくって、刀鍛冶がまっとうに暮らせるようにしたいと考えています。河内家では一番上の兄が父の跡を継ぐために修行していますから、私は刀の文化をフォローする側にまわっています。

刀の文化を残すためのエバンジェリスト。

studio 仕組のメイン事業、日本刀の販売についてはどのような活動を行っているのでしょうか?

市場を広げるために、海外にも重点を置いています。アメリカやヨーロッパでは日本刀の価値はすでに理解されていて美術品として収集する数寄者が多いので、私たちは中東やインドなどアジアに出向いてイベントを開いています。富裕層の多いドバイなどでは興味を示す人も多く、1振り1,500万円の値をつけても即決で買おうとする人がいるんです。ただ、私はすぐに売ることはしないのですが。

せっかく買ってくれるというのにですか?

はい。その人は日本刀のことを何も知りませんから。「なんか面白いから買うよ」と言う人にはいくらだろうが絶対に売りません。買いたいなら、日本に来てくださいと伝えます。東京のこのギャラリーで半日かけて刀の説明をして、日本に一千年以上受け継がれる精神、どういう歴史があるのかをわかってもらいます。刀というのはただの武器として人を斬るだけのものなら、こんなにピカピカにしたり、刃文にこだわってつくらなくていいんですよ。でも、昔の人はそこに美しさを求め、もののふの心として受け継いでいった。そんな日本刀の文化の背景に興味を持ってもらって刀匠仕事場ツアーに誘います。例えば奈良の刀匠の仕事場に行って、その村の食事をして、刀匠がどういう風土のもとでどういう想いで仕事をしているかを知ってもらいます。そうして日本刀の文化と刀鍛冶の仕事のことを理解してもらった上で、買っていただく。そういう体験をすれば、帰国して家族や知り合いに日本刀のストーリーを話すと思うんです。刀文化のことを伝えていれば、その方が亡くなった時に、受け継いだ子どもがよくわからないからオークションに出してどこかへ流れたり、ぞんざいな扱いをされず、刀はストーリーとともに残っていくでしょうから。

新たな技術と才能を活かし、世の中とつないでいく。

伝統工芸から派生した新しい作品づくりもされていますね。

透明の鞘の短刀「SUMISAYA」は、優れた3Dプリントの技術を持つパートナー社の株式会社カブクとともに開発したものです。普通、刀の刃文は鞘に収まって見えませんが、その美しさを伝えたい想いがありました。他にも、作品にならない刀を細かく切ってアクセサリーにした「鏤鋼-chirihagane-」も、刀という文化をもっと知ってもらって、身近に感じてほしい、その思いで製作したものです。廃棄されるものでも製品化につながれば刀鍛冶の収入につながりますから。刀だけでなく、伝統技術の漆芸と金属3Dプリントのデジタルテクノロジーを融合させた酒器「urushi」も職人の方とともに開発しました。よく、新しい技術を使うと「伝統工芸ではない」と見做す人もいますが、あれはおかしな話です。時代とともに技術の進んだ道具を使って、より美しくできることの何がいけないのか。そういう偏見は足かせに過ぎず、文化が廃れていく要因だと思っていますよ。新しい技術やアイディアを取り入れるのは、今の時代の人々に伝え、過去の技術や発想の凄さを改めて感じ、その中で後世につなげるためですから。

伝統のものづくりの文化を伝えていくために、多彩な取り組みをされているのですね。

つくり手の方への支援とプロデュースも私たちの仕事です。才能のある若手クリエイターは知られていないだけで、実はたくさんいます。そうした人たちの技術や作品を世に広めるために、ギャラリーを運営したり、コラボレーションして新たな作品を作ったり、制作環境を提供したりしています。今後は職人のネットワークとなる「CopulA」というプロジェクトで、創作活動をちゃんと生業にできるように、制作場所の確保、販売の際の契約や法務関連などの面で私たちが交渉に立つことも考えています。通常、ギャラリーに出展して販売が成立しても、アーティストに支払われるフィーは少ないんです。それではあとが続かない。でも、作品を売るためにはその方法が主流です。少しでもつくり手に有利になるような販売方法や契約にするなど、事務的なところもサポートできればと考えています。

つくり手の方にとっては心強いですね。

他にも、文化を残していくためには“道具や材料をつくる人” を残す取り組みも必要だと考えています。刀鍛冶にしても鞴(ふいご)をつくる職人や炭をつくる職人、玉鋼をつくる人、藁を集める人が必要です。漆芸にしても漆の木を植えメンテナンスをする「山いき」さんがいま不足している。じゃあ、中国の漆を使えばいいかというとそうではない。日本の漆芸品は日本の四季で育った漆が合うと思うんですよ。作品づくりに携わる人だけでなく、それぞれの工程に必要なものをつくる人材の保護・育成も急務と考えています。

ものづくりの文化を残していく新たなフィールドへ。

つくり手の創作活動の普及の場として、「藏持」が新たに加わることになりますね。

はい。縁プロジェクトに参画することで、家づくりをされたオーナーさまに食器などの工芸やアート作品をお分けすることができますし、店舗や会社を経営されるお客さまには美術品を展示したり、デジタル複製した絵画やポスターなどを額装して飾ることもできます。藏持さんのお客さまには文化度を高めたいという思いをお持ちの方が多くいらっしゃいますから、つくり手の方々のモチベーションも上がることでしょう。オーナーさまの「数寄(好き)」に応えながら、ものづくりの文化が残っていくことは素晴らしいことですね。

藏持の海外プロジェクトにも広がりそうですね。

国内だけでなく、アジアにも日本の伝統工芸や現代アート作品などを広めるいい機会になります。日本のものづくりの文化は、何も日本だけで残さなければいけないということはありません。そのよさ、価値観をわかる人が持ってくれてずっと残っていくなら、つくり手もその作品も幸せだと思います。

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