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縁プロジェクト_vol.11

昔も今も。
幸せな日々を彩る酒を
造り続けていく。
宮坂 直孝
宮坂酒造株式会社
代表取締役社長
宮坂 直孝氏
PROFILE

慶応義塾大学商学部卒業後、米ワシントン州にてMBA取得。百貨店勤務を経て、家業である宮坂酒蔵株式会社に入社。現在、代表取締役社長であり1662年から続く老舗の当主として事業と酒造りに取り組む。日本吟醸酒協会理事長、諏訪商工会議所副会頭を歴任。

古くから愛される『真澄』ブランドを中心に、
国内だけではなく海外にも日本酒を展開している宮坂酒造株式会社(長野県諏訪市)。
酒という文化が、これからのくらしを豊かに、上質にするためにできることとは?
当主である宮坂直孝さんに訊く。

酒は人を幸せにするためにある。

『真澄』はどのようなコンセプトを持ったお酒なのでしょうか?

祖父の代から、真澄という酒は、宴会で男が集まってワーッと騒いで飲む酒ではなく、家庭で飲んでいただける「食中酒」を目指してきました。これにはパーソナルな理由もあります。祖父の父が酒の仕事をしすぎて55歳の若さで死んでいる。酒席を通じての酷い噂も聞こえてくる。そんな中で若くして突然商売をやれといわれた祖父は大変な苦労をしたのでしょう。廃業も考えたといいます。継ぐからには、酒は社会に害悪をもたらすものであってはいけない。それが祖父の意志。家庭で、家族や奥さんと、そして、親しい友達としんみりと楽しんでもらいたい。それが真澄なんだと。当時の酒文化からすれば厳しい選択だったでしょう。よくぞ守ったと思います。

酒蔵には『セラ真澄』というショップを併設しているのですが、そのコンセプトも「酒のある和やかな食卓」。酒だけを並べるのではなく、酒のある食卓にみんなが集まってきたくなるような商品を並べています。

暮らしを彩る手段としての酒。

酒があることで、素敵なくらしを楽しむことができるんですね。

私自身、年を重ねるごとに深まっている思いなのですが、人生最大の喜びは、家族や親しい友人と飯を食うということではないかと。それ以外あるのかなあと。高級な寿司店でも一人で行って楽しいのか? うまいのか? 誰かと共有するからうまい。食事ってそういうものだと思うんです。そう、何を食べるのかというより、誰とどんな風に食べるのか。そこが大切。真澄というお酒がそこにあって、さらに輪が広がればうれしいですね。

ただ、それは日本酒だけでなくてもいいんです。ワインでもビールでもウィスキーでも、上質なものがあればいい。たくさん呑まなくてもいい。お酒で少し心が開けて、会話がはずむ。それがいいんです。みなさんお忙しいとは思いますが、週に2回、エンドレスで夜ご飯を家族で囲むことをおススメしたい。豪華料理も必要ありません。大根を刻んだだけでもおかずになる。

先日、イタリアの村の食堂で食事をしました。そこには、おじいちゃん、おばあちゃん、こどもたちもたくさん集まって、あっちでもこっちでも家族同士で大騒ぎ。地酒のようなワインを飲みながら延々と食事している。その光景は日本のくらしにもとても大切なものだと感じました。

家族のつながりの中心は食事で、家の中心は食卓。今、残念ながら家庭環境は壊れてきています。もう一度、皆が集える食卓の時間のために。それも酒造りにつながっていきます。

後の人生、好きな人たちと集まれればいい。

集える場所、集える時間。それが家にあることは素晴らしいことでしょう。

私は還暦をすぎましたが、余生は毎日パーティ、パーティで過ごしたい(笑)。今、自宅の立て替えを計画しているのですが、そのときはパーティルームを作りたい。家族、親戚、仲の良い友人たちがゆったり集える場所。アイランドキッチンとダイニングテーブルがすぐそばにあって、どちらからも様子が見られる。そんな、ゆったりくつろげるパーティルームと、バーベキューのできる庭があれば理想的。これは夢なのですが、同じような思いの友人が住めるような場所を造って、その中にもパーティルームとバーベキューテラス。そこでいい酒と、いい食を分かち合えたら最高ですね。

幸せ感の見直し、という時代へ。

代々、時代に左右されず信じた酒造りをされ、宮坂さんも多忙な中、ご自身の暮らしを大切にされています。こうした自分のくらし、ライフスタイルを見直す機運は高まっているようです。

そうですね。「古民家でくらしてみたい」ですとか「都会の大企業から地方の中小企業に就職して山を見て暮らしている」という方が増えている。幸せ感の見直しというのが始まっていて、理想とするライフスタイルが変わってきている。これは単なる流行ではないと思います。

以前あった幸せの方程式。地元のいい高校を出て、6大学や有名国立私立大に入って、大企業がゴール。でも、そうやって生きてきた大人たちが明るい表情をしていない。それが見えてきてしまった。そこで幸せ感の見直しというのが始まっているのだと思います。実際、若い世代の方はしっかりと、お仕着せではない幸せをわかっているし、自分自身のことも良く見えていると思います。

うちの息子もそうですが、全国の酒蔵でも、今、若い世代ががんばっています。都会から戻ってきた若い世代です。彼らが口を揃えて言うのは、「親父が口を出すならやらないよ」。ライフスタイルも酒造りもこだわりをもっている。それで好き勝手にやって結果つぶれてしまった酒蔵もあるけれど、概ねうまくいっていますし、彼らのおかげで、日本酒のクオリティが上がり、勢いが出てきたことも間違いありません。

若い人は、我々のような後は余生という人間よりも、しっかり真剣に努力するんです。だって、これからの人生、まだやることがたくさんあるんですよ。子育てもしなきゃいけない、家族を守らなきゃいけない。だから一生懸命やる。若い酒蔵同士でネットでつながったり一緒にイベントを立ちあげたりして、マーケティング的にもテクニカル的にも柔軟で、レベルもどんどん上がっている。彼ら世代が、もっと、お酒をくらしの幸せと結びつけてくれたらうれしいですね。それを眺めながら私は家でパーティとバーベキュー三昧で(笑)

そう考えると、あの時代、祖父が、当時の常識ではなく、新しい価値観を取り入れ、守ってきたことはすごいことだなと改めて思います。

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