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縁プロジェクト_vol.07

障がいのある方も誰もが
当たり前に楽しめる暮らしへ。
関根 健一
ジーデザイン
関根 健一氏
PROFILE

1995年、関根工業に入社し住宅基礎、外構などの施工に携わる。2010年、「福祉と建築とコミュニケーションデザイン」のGee Design(ジーデザイン)を設立。障がいのある方の就労訓練の場となる店舗の設計・デザインを手がける。これまで全国特別支援学校知的障害教育校PTA連合会副会長や理事を歴任。同連合会にて東日本大震災被災地調査隊、防災部会部員等を務めた。NPO法人日本障がい者写真協会理事・コーディネーター。

2017年1月、所沢市こどもと福祉の未来館に、焼きたてパンとパンケーキの店「テミカフェ」がオープンした。
この店は株式会社テミルが推進する、障がい者の就労支援プロジェクトの一環で開設されたもので、一般企業での就労が困難な人のための“働く訓練の場”となっている。
知的障がいのある方が働きやすく、かつ人々の憩いの場となる店舗の空間デザインを担当したジーデザイン(埼玉県富士見市)の関根氏に福祉と建築について話を聞いた。

障がいのある方が自然に働く。人々が自然に憩う。

こちらが知的障がいの方の就労訓練の場ですか? ずいぶんおしゃれなカフェですね。

目的としては訓練の場ではあるのですが、一般の人が普通の感覚で入れるカフェにしたかったんです。「障がい者が働く店だから、行ってあげよう」とかでなく。いいと思ったから店に行って自然にくつろぎ、そうした人が働いていることは後で気づいてもらえばいい。人はどこか「貢献してあげなきゃ」と思いがちですが、こういう店がいくつも広がっていけば、障がいのある方が働いていることに特別な意識も持たず、自然に関われるのではないでしょうか。障がい者もその家族もそんな社会を願っていると思います。

空間デザインにはどんな工夫があるでしょう?

働くスタッフが行動する空間の壁をグリーンのペイントにして、視覚的にわかりやすくエリアを捉えることができるようにしました。「ここから先はお客様のスペース」とか張り紙をしても読まないといけないし、何より格好がつかない。誰もが集う素敵な空間にはそんな張り紙はふさわしくないですよね。働く障がい者の方やそこで支援する人にとって機能的で、かつお客様から見てもスマートに見える空間デザインを意識しました。中央のキッチンを木の幹に見立て、そこから全体に豊かなグリーンの葉が茂り、働くスタッフが育っていく姿を表しています。あと、レジカウンターの壁の部分が従業員とお客さまの接点となり境界になるのですが、そこは明確に線を引くのではなく、双方の心が自然に通い合うようなグラデーションの表現にしています。障がい者と社会との間の溝を埋めていく、私たちの願いを表したものです。

知的障がい児とのふれあいから得た視点を建築に活かす。

このお仕事をされるきっかけをお聞かせいただけますか?

私の長女が脳性麻痺で、これまで特別支援学校のPTA活動を行ってきました。地域をはじめ全国の福祉に関わる自治体やNPO、教育機関、企業などいろんな方たちとの出会いが出会いを呼び、(株)テミルの社長をご紹介いただいたのがきっかけです。私はもともと父の代から始まった土建屋で外構工事をしていたのですが、障がい者と社会との間にある溝をずっと感じていたので、建築で何か変えられることができないかと思い、こうした福祉の店舗設計は初めてだったのですが協力させていただくことになりました。

それは特別支援学校のPTA活動の経験が大きかったのでしょうか?

そうですね。PTAの活動をする中で、自ずと障がいのある児童・生徒と接する機会も増えてきました。そこで子ども達が大きな声を出してしまう時にどうするかとか、特徴や対応の仕方などいろんな目線が持てるようになったんです。烏滸がましい話なんですが、私は学校に通っている子どもたちには、どの子でもその子の父親になったつもりでいろいろ接してきました。こうした経験を店舗設計に活かすことができるのではないかと考えていましたので、この仕事に踏み出しました。ある自閉症の子で親以外にはなかなか心を許さなかった子が、ふれあう時間を重ねその子を知っていくうちに、私にちょっかいを出してきたんですね。それを見たお父さんとお母さんが、目を見合わせてビックリしていました。あの時の嬉しかった気持ちは今でも覚えています。みんな、そうした子たちとコミュニケーションをとる方法を知らないだけなんですよね。まず、知ること。それが今の社会に必要なことだと思います。

障がいは、人にあるのではない。社会にある。

こうした就労訓練の場は増えているのでしょうか?

増えつつはあると思いますが、まだまだ足りない。今の日本の社会では、障がいのある人の“できないこと” ばかりフォーカスされてしまう。あれができない、これができないと。人の手を借りないとできないと植えつけられているような。でも、できたことってみんな必ず積み重なるんですよ。そこで今カップを洗っているH さんは、最初はあまり接客は向いていないと思われていたそうです。でも自分にもできることがあるとわかると笑顔が増えていきました。そして「働くのが楽しくなってきたよ」とつぶやいたそうです。なんとかして多くの人たちに成功体験をしてほしいのですが、こうした就労訓練の場も少なければ、知的障がい者を雇用する企業もまだまだ少ない。誰かが考えなければいけないことなのに、福祉関係者以外で我が事のように考えている人はまだまだ少ない。みんな自分とは関係ない「障がい者の問題」と括ることで安心したい。自分はそこにいないから関係ないと。

一人ひとりの障がいへの考えがまだまだ進んでいないんですね。

障がいって言いますが、誰だって何かしら苦手なことはあると思うんです。障がい者と健常者は、0と100ではなくて、その間にある1から99の間にいろんな苦手なことを抱えた人がいるのが社会です。車椅子の方ならまだ障がいがあるとはっきりわかりますが、知的、発達障がい、学習障がいというのは見えにくいし、程度もさまざま。でもそこには確実に“困り”がある。その環境を変えることができるのが建築とコミュニケーションデザインだと思っています。今は世の中の“困り”が顕在化されていない。だからこうして建築で解決しようとする人もまだ少ないのだと思います。福祉建築の分野では、高齢者施設などは専門に設計する部門を作る会社なども増えてきました。でも、働く場についてはまだまだ。みんな建築の工夫で解決できることを知らないんですよね。社会が知っていない。

既製のバリアフリーの枠を超えていく。

住まいづくりにも関根さんの視点が活かされていくといいですね。

例えば車椅子の方が住まいを新しくしたい場合、「はい、バリアフリーにします。これで満足でしょ?」と。そこから先を考えてくれるところって、少ないのではないでしょうか。マイナスをゼロにするくらいの感覚でしかない。段差をなくしたり、手すりをつけることは前提に過ぎないのに。障がいのある方だって、楽しみたい趣味やこだわりたいものはある。みんな同じなのに。一般的にバリアフリー住宅と括られたものに、あなたが住みたいと思うところはありますか?手すりの部材、スロープのつけ方、使う素材、みんなその括りの中では選択肢が限られているのが現状です。その中からしか選べないやり方を私は変えていきたい。発達障がいや知的障がいなどの障がいがある方にとって住みやすい家づくりの工夫も、まだまだ考えていく余地があると思います。藏持さんとならそうした革新を起こせると感じたので、縁プロジェクトに参画しました。

障がいのある方でも「自分メイド」が実現できることを広く伝えていきたいですね。

ええ。私の観点で考える障がい者のための家づくりは、あくまでも大前提の話。暮らしやすさを考慮することはスタートラインです。そこから先、藏持さんに集まるさまざまなマイスターの方々のノウハウを活かしたりして、その人らしいこだわりのある住まいをいっしょにつくっていければと思っています。障がいを克服できる住まいではなく、障がいがあっても暮らしを楽しめる住まいにする。それが当たり前であることにみんなが気づき、そうした暮らしをする人が増えることになれば、これほど文化度が高まることはないと思います。

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