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縁プロジェクト_vol.05

書の文化の伝え手として
挑み、超え続ける。
青柳 美扇
書道家
青柳 美扇氏
PROFILE

1990年大阪府生まれ。6歳より祖母の影響を受け書道をはじめる。16歳で師範取得。 大学で日本一の能書家である空海について、さらに大学院で中国書法について研究。書道家として和の文化、書道の魅力を世界へ発信する書道パフォーマンスの活動も続けている。近年では文字だけにとらわれず、水墨の抽象画『BOKUSYO』の 分野において評価を受け、和の空間プロデュース・アートディレクションも手がけている。

甲冑を身に纏い、大筆を振るうパフォーマンスで、アジアの国々を魅了する書道家をご存知だろうか。
若くして練達。その細腕からは想像し難い、エネルギーに満ち溢れた筆さばきで人々を驚かせる青柳美扇氏。
書への想いとは、自身を突き動かすものは何かを訊いた。

幼い頃から日本の文化に囲まれて育った。

弱冠16歳で書道師範となったそうですが、書道はどのようにして始められたのでしょう?

祖母が書道の師範で、幼い頃より書を教えてくれました。聞けば2、3歳頃から筆で遊んでいたそうです。祖母の実家は寺だったので、家には観音様や不動明王の仏像がいくつもあり、私は写仏や写経の真似ごとをしていました。祖母は和裁の先生でもあり、茶道や華道にも通じていて、私はいろんな日本文化に触れながら育ったんです。その中で一番好きだったのが書道でした。書道教室に通うようになり、小学校、中学校、高校と、ずっと書道に励んできました。大会などで賞をいただくと、まわりの方がとても褒めてくれて。これは凄いことなのかもと。

それで大学進学も書の道へ?

ええ。ですが今までは挫折を知らずに自信を持って書いてきたのに、大学で出会った先生に「お前は下手や」と言われてしまい。衝撃でした。ずっと綺麗に書くことに重きを置いてきたのに、ショックで…。もうそれからは必死に修行でしたね。それが書の芸術の道へ歩んでいく、私の人生の岐路になりました。

心の師は、千二百年前に。

お祖母様に始まり、大学の先生によって、美扇さんの書は磨かれていったのですね。

あとは空海です。三筆の一人ですが、私は日本一の能書家だと思っています。空海の『聾瞽指帰(ろうこしいき)』を初めて見た時も私は衝撃を受けました。その書は空海が20代前半の頃、各地で修行を重ねた末、仏教の奥義を極めたいとして出家する動機を表明したものです。文献でしかその書を見たことがなかったのですが、国宝の実物を初めて見た時にどうしたらこんな字が書けるのだろうと。小さな書なんですが、私にはとても大きく感じて。そこから放たれるオーラに只々感動していました。それで、空海がどんな影響を受けたのか知りたくなり、研究を始めました。

では、いまの美扇さんの書は空海に影響されているところがあるのでしょうか?

大いにありますよ。書道パフォーマンスで書く字も、空海が書いた字からインスパイアされたものです。現在、空海が書いた一字一字をとって、約3,000字くらいを研究しています。この書のこの字は、中国の誰に影響されているとか。もの凄い数の字を見ているので、空海の特徴、字の大きさ、空間のとり方などが身に染み付いています。私の書には空海のエッセンスがどこかにありますよ。それを多くの人に感じてもらえたらと思っています。

日本の書の文化を、日本の人々へ。

書道パフォーマンスでは甲冑を纏う姿が印象的ですが、なぜ甲冑を?

書道パフォーマンスは大学時代から始めました。廃部になりかけていた書道部を立て直そうと、とにかく地味な書のイメージを払拭して、書ってカッコいいんだよ、素晴らしい文化なんだよと伝えたかった。甲斐あってだんだん多くのコが集まってくれて、部を盛り上げることができました。でも、世の中的にはまだまだで。日本で美術展などに行くと、絵や器は人気ですが、書の展示の前はガラガラなんですよ。そういうのが寂しくて。そうしているうちに、海外でパフォーマンスをやってみないかと話をいただき、その時、思ったんです。日本人は海外から入ってくるものには敏感ですけど、日本の中に埋もれている文化はあまり振り向いてもらえない。それなら海外で日本の文化が注目されていることを、逆に日本に知らせれば、そのよさに気づいてもらえるかなと。そんな挑戦の思いで甲冑を着て、これまでタイやインドネシア、中国、台湾などでパフォーマンスをしてきました。

日本にある文化を、日本の人々に知ってほしい。その思いが原動力だったんですね。

私の好きな言葉は「超える」です。いつもステージで120%満足していても、前回のステージよりも超える書を書こうと。超えられるものを求めて、ステージに臨んでいます。今の私の書きぶりはエネルギーがあると思いますが、それは若い今しかできないこと。その力を響かせ、日本の多くの人々に書の素晴らしい文化を知ってもらえたらと願っています。「書は散なり」と空海は書きました。心を解き放ち、心を自然界にゆったりと遊ばせ、手本となる法則を移りゆく四季に求め、文字を森羅万象に具象化する。その心をもって、私は書に挑み続けています。そんな書道家がいることを、書という魅力を、一人でも多くの方に知ってもらえたら嬉しいです。

暮らしの中に当たり前にある本物を。

現在は、書だけでなく、筆で抽象画を描く墨象アートも創られているそうですが。

きっかけは、気分転換に山や川に出かけた時です。とても気持ちがよくて、何か表現したかったんですね。字だと明確な意味を持つので、画にしようと。緩やかな川の流れや澄んだ風をイメージして筆で思いのままに描いたのが始まりです。今ではいろんな企業さまから、「この空間に合う墨象を」と依頼を受け描いています。最近では、オフィスやホテル、店舗などの空間自体をプロデュースすることもあります。スタイリッシュな和の空間を考えて、そこに溶け込むような書や墨象を入れる。少しずつフィールドが広がってきました。日本の書の文化が少しずつ再認識されはじめているのかなと感じています。

藏持の「縁プロジェクト」も日本の文化を高める活動です。考えが合致したのでしょうか?

藏持さんとお話ししていて、いいものを残すにはそのままではダメだと。私も書とプロジェクションマッピングを融合させたりしていますが、何かと何かを合わせたり、少し新しい工夫が必要だという点で藏持さんと考えが同じでした。伝統は守るだけでは後世に伝わらない。時代の感覚を取り入れながら、暮らしの中の文化を高めていく。そこに書道家としてもお手伝いできることがあればと思い、縁プロジェクトに参画させていただきました。私が幼い頃から日本の文化に自然に親しんできたように、現代の暮らしの中でも、伝統の建築や書、こだわりのものなど、本物に触れながら育っていく。これからの藏持さんとのコラボレーションで、そんな素晴らしい住文化をずっと支えていきたいと思っています。

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